『 スラムドッグ$ミリオネア 』 （2008）

 

監　 督　：	ダニー・ボイル
キャスト　：	デヴ・パテル、マドゥール・ミタル、フリーダ・ピント、アニル・カプール、 イルファン・カーン、サウラーブ・シュクラ、ラージ・ズツィ、 マネシュ・マンジレカル、ヒマンシュ・チャギ
『トレインスポッティング』のダニー・ボイル監督が、インドのスラムで育った青年の運命を劇的に描いたヒューマンドラマ。 原作はヴィカス・スワラップの小説「僕と１ルピーの神様」。 　スラム街出身のジャマール（パテル）は、TV番組「クイズ＄ミリオネア」で正解を重ね最終問題へたどり着く。億万長者へのチャンスをつかむジャマールだったが、不正を疑われ逮捕されてしまう。

Good！

・単純といえば単純なストーリーですが、荒唐無稽でありつつもギリギリでリアルさが保たれていて引き込まれました。「人生の中に無駄なものは一つもない」という考え方に共感できる人は楽しめるのではないでしょうか。

・ハラハラドキドキの連続で、一瞬たりとも目が離せませんでした。主人公の幼少時代の回想シーンは、平和ボケした日本人にはあまりに強烈です。

・登場する少年少女らの目の輝きに感動する。生き抜くことへのハングリー精神、非情な現実を目の当たりにしながらも、それでも生きたいと願うパワー。インドという国のエネルギーにただ驚くばかり。

・インドの過酷なスラムで生きる中で、主人公のような道を辿れるのは二人といないかもしれない。でも、だからこそ当作のようなファンタジーが嬉しい。スラムに限らず、人生にはその人なりの苦しみがたくさんある。だからこそ、こういう希望の映画が必要なのだと思う。

・万人の憧れる夢のような物語ではあるが、この作品は決してサクセスストーリーというわけではない。インドで実際に起きている問題が切実に描かれていた、胸を抉る作品。

・画面いっぱいの躍動感が素晴らしい。カメラワークに連動するリズム、生活の匂いが伝わってくるスラム街と人々の表情。時にくすみ、時に鮮明な映像のコントラストは、まるで写真集を見ているかのような錯覚に陥る。

・世界中が不況に喘ぐご時世、せめて映画だけでも夢を見たいもの。サリームとジャマールの兄弟愛に激しく感動。アカデミー賞８冠は、まさに「運命」だったのでは。

・スラム街の凄惨な生活の中で、パワフルに生き抜く子供たちの生命力が強烈に印象に残りました。取り巻く環境に絶望せず、ただガムシャラに生きる……奇跡とは、そういう前向きな人への神様からの贈り物なのだと思える、素敵な作品でした。

・冒頭からただただ圧倒される二時間。観ていて辛いシーンもあるが、あくまでエンターテイメントとして楽しんでもらおうという製作者側の配慮を感じる。

・展開の巧さが光る。回想から現在へと場面が行き来するが、混乱することなく楽しめる。 忘れかけた頃に絶妙に回収される伏線も見事。 物語が繋がる心地よさを味わえる、良質なヒューマンドラマ。

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No good

・あり得ない展開に、必死に現実味を加えようとしているアンバランス。開き直ってミラクルストーリーを目指すか、あくまでリアリティを追及するか、どちらかに方向性を決めた方がよかったのでは？

・信憑性に欠ける、嘘臭い「ロミオとジュリエット」といった印象。インドのスラムの悲惨さを、安いお伽噺に利用するのは如何なものか。

・中盤以降に若干の演出の急ぎを感じた。主人公らの心情が曖昧で展開がやけに唐突。番組に出た主人公への人々の反応もステレオタイプで少し興醒め。

・胸のすくエンターテイメントではあったが、鑑賞後に膝に重い荷物を乗せられた気分になった。何だか、素直に「面白かった」と言ってはいけないような……。

・「偶然」でミリオネアに全問正解する話の、どこに夢や希望を見出せというのだろう。主人公があそこまでヒロインを愛している理由も不明。もっと彼女の魅力なり、二人の絆なりを描いてこそ感動できるものなのに……。

・「人生無駄ではない」というメッセージは分かる。だがその証明が「ミリオネアで全問正解」ではあまりに薄っぺらいだろう。

・この映画は、カースト制度の悲劇をいとも安易に「運命」という言葉で片付け、それを単なる物語の背景や状況設定のために用い、臆面もなく商業的利益を追求している。こんなに怒りを覚える映画はない。

・クイズで人生を振り返っていく構図は悪くないのだが、どうにもリアリティに欠けている。主人公をはじめ、人物たちの生き様が描写不足で重さがない。賞を総ナメということで、少し期待しすぎたか。

・社会派映画を気取りながらご都合主義でお茶を濁した、許されざる作品。それらしい音楽をバックに見せられる「消毒されたスラム街」には、現実味の欠片もない。

・ミリオネア司会者の反応が頂けない。普通、貧乏な出演者が夢を実現しようとしている展開は、番組サイドからすれば大歓迎なのでは？　主人公の足を引っ張ろうとばかりする司会者は、何だか物語のために安易に悪役にされた印象を受ける。

【関連作品】
『127時間』　（ダニー・ボイル監督）
『サンシャイン2057』　（ダニー・ボイル監督）
『28日後...』　（ダニー・ボイル監督）
『ザ・ビーチ』　（ダニー・ボイル監督）
『トレインスポッティング』　（ダニー・ボイル監督）
『ムトゥ 踊るマハラジャ』　（A.R.ラフマーン音楽）
『エアベンダー』　（デヴ・パテル出演）
『ニューヨーク、アイラブユー』　（イルファン・カーン出演）
『ダージリン急行』　（イルファン・カーン出演）
『マイティ・ハート/愛と絆』　（イルファン・カーン出演）

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